列車を降りると、夏の熱気がおれを迎えてくれた。改札を通り、駅構内にあった幟(のぼり)は、栃木SCの告知。
それを横目に見つつ、タクシーで栃木市総合運動公園陸上競技場へ向かう。
競技場までは1,090円。競技場の入り口近くはカラーコーンで囲われており、その中に入る段階でチケットを買わなければならない。
そのチケットは、関東サッカーリーグのチケットだ。
今日の対戦カードは、栃木シティvsブリオベッカ浦安
芝生エリアのチケットを購入し、競技場内に入る。
アウェイチーム応援エリアには、浦安を応援するファンが10人以上いた。「この試合で勝たなければ」リーグ戦で3位以内に入ることが厳しくなる。すなわち、昇格が絶望的になる。
特に大事な試合ということは、全員がわかっていた。
おれが競技場に入って間も無く、キックオフ。
前半15分は静かな立ち上がり。栃木シティが個人技で相手を崩そうとする意図が伺える。浦安は、いつも通りサイドから好機を狙う。
1週間前の浦安市陸と同様に、15分毎に飲水タイムが設定されていた。最初の飲水タイムが終わった直後、栃木シティが先制点をあげる。
山村佑樹の個人技。PA近くで浦安の選手をフェイントで剥がした直後、地を這うようなライナー性のシュートだった。
とはいえ、1点取られるのは、もはや恒例行事。浦安ファンは気落ちせず応援を続ける。
しかし、あっさり栃木シティが追加点をあげる。やや遠い位置でフリーキックのチャンスを得て(浦安ファンからは、判定に不満の声が出ていた)、ファーサイドで折り返し、キムソンギ(北朝鮮A代表経験者)が体ごとボールをネットに押し込んだ。
浦安から見れば、2点ビハインド。決定的なシュートを打てない状況で、さすがに焦りがつのる。
前半40分過ぎには秋葉がいい形でシュートを打つ。これは決まらなかったが、少し内容が良くなる。前半のうちに1点返せば…という想いは強かったが、前半はこのまま終了。いい崩しからのシュートは、ほとんど見られなかった。
暑い気候のアウェイゲーム。個人技が強烈な相手に2点のビハインド。
いつも交代が遅い監督はどう動くか、控え選手の様子を見ていると、最初に植田がロッカールームに下がった。少しの間をおいて、小島 樹が下がっていった。小島は、ヒザに軽いテーピングが施されており、やや不安を覚える(3年前の竹中のように、力士が巻くようなテーピングではなかった)。
もっと不安を覚えたのは、残ったフィールドプレーヤーのシュート練習だ。PAから少し離れたところから打っていたが、ことごとく枠外に外れる。アウェイゲームなので、ボールを取りに行くこともできず、もどかしさを感じた。
結局、そのボールは控え選手が回収に回る。
おれは、近くまでボールを拾いに来た菊島に「後半頼むぞ!」と声をかける。菊島は、力強い返事をしてくれた。
勝負の後半。
都並監督は、浦安の声出しファンの予想と違った選手交代を行う。
交代を行ったポジションは、ボランチをサイドバックだ。前のポジションは選手を変えなかった。
しかし、田宮 諒のプレーは明らかに変わった。ひたすらDFラインの裏を狙い続けた。
それが見て取れた直後、浦安が反撃ののろしをあげる。最前線まで走りこんでいた、秋葉のゴール。ひとまずのエレクトリカルパレードが田舎で歌われる。
田宮のプレーは、相手の右SBとCBの裏を取るのが、非常にうまかった。(おれは、田宮のこういうプレーを見たかった!)
浦安が1点差に追い上げた直後の後半5分。栃木シティは2枚目の選手交代を行う。左サイドバックの交代だ。
この交代は、おれにとって意味不明。相手から見れば、秋葉のケアを重要視する判断なのだろうが、右SBとCBの裏を取られるのは野放図でよいのか?それと、ボランチが村田&小島という地域リーグ屈指のパス配給への対策を取らないことに、驚いた。
「愚の骨頂」レベルの交代が行われた後も、浦安の選手は躍動する。田宮は裏を狙い続け、村田&小島が急所を突くパスを配給し続ける。浦安ファンは、暑さをものともしない声援を送る。
なのだが、後半15分前後の時間帯は、攻め急ぎが目立った。
おれは「焦んなよ!」「相手の監督が1番焦っている!」と応援だかヤジだかよくわからない応援をする。
(浦安の声出しファンには、「都並も相手の監督も、試合中の修正能力はゼロに近い」とぼやいた。)
浦安は、カウンターからピンチを迎える場面も多かったが、センターバックの2人が何とか対応する。決定的なシュートを打たれても、GK山田がスーパーセーブを連発。
攻撃では、立ち上がりのような勢いはなくなったが、菊島投入の効果もありコーナーキックのチャンスは増えている。悪い流れではない。
後半30分の飲水タイム後も、大きな流れは変わらない。
浦安は臼井を投入。DFライン付近を縦横無尽に駆け回る。後半35分になったところで、栃木シティは松下を投入。逃げ切りの意図が見える。
残り時間が少なくなり、浦安ファンの応援が熱をおびる。その直後、PKゲット。
このPKは竹中が決めて同点に追いつく。浦安ファンはエレクトリカルパレードを歌うが、おれは1人で「カモン浦安」コールを始める。
同点に追いつかれた栃木シティは、外国籍のFW2人を立て続けに投入。
したにもかかわらず、浦安が決定機を迎える。PA外から竹中が豪快にミドルシュートを放つ。豪快にバーを揺らした。浦安ファンは、悔しさと驚きが混ざったような歓声でわいた。
後半アディショナルタイムは4分。
浦安がコーナーキックを得れば、GK山田が前線に上がる。それでも、決まらない。
直後に栃木シティがフリーキックのチャンスを得る。栃木シティのキッカーとキーパー以外は、全員がボールより前に出る。それでも、決まらない。
両チームとも勝ち点3を狙いにきている。浦安ファンは、暑さを忘れて懸命に応援する。
後半アディショナルタイムが4分に差し掛かったとき、浦安がカウンターでチャンスを迎える。菊島が裏を狙う。そこに、絶妙なスルーパスが出た!
菊島がシュートを打つ。と見せかけて、相手GKの体勢を崩す。そして、無人のゴールにボールを蹴りこんだ。
メインスタンド寄りの副審は、ゴールを認める判定を下した…
浦安応援席は「過去最強レベル」の狂喜乱舞。
言葉にならない雄たけび。
ハイタッチやハグの嵐。
グダグダなエレクトリカルパレード。
かすれ声の「菊島」コール。
センターサークルから栃木シティボールでゲームは再開したが、5秒後に試合終了。
あまりにも劇的な展開で、ブリオベッカ浦安は勝ち点3を手にした
試合後のラインダンスは、今年1番盛り上がった(小島 樹のケガの具合は、少し気になった)。
ラインダンスの後は、選手数名とハイタッチ。菊島や村田とハイタッチできて、嬉しかった。
でも、個人的MVPはGKの山田。後半は、中島宏海を思い出させる安定感だった。
ハイタッチが終わった後の浦安応援席は、オーバーヒート状態。全く興奮が冷めない。10分以上その場で熱を冷ましてから、競技場を後にした。
ブリオベッカ浦安は、最も劇的な形で勝利をおさめた。
栃木シティは、最もショッキングな形で敗北を喫した。
とはいえ、勝ち点は栃木シティのほうが上回っている。
浦安にとって、まずはリーグ戦3位フィニッシュが目標になる。
次節も「相手にとって怖い」サッカーをしてほしい。